日本赤十字社の命を救う活動
▲武力衝突前のガザ地区の街並み
いまだに世界各地で起こる戦争や紛争。そんな紛争地で、世界中にネットワークを持つ国際赤十字社は人道支援活動を行い、人々の命とくらしを守り続けています。8月は平和を考える大切な時期。日本赤十字社の活動を通して、私たちも一緒に考えてみませんか。
▲病院近くのパン屋
▲日本赤十字社とパレスチナ赤新月社のニーズ調査によりNICU(新生児集中治療室)を担うスタッフの育成に取り組んでいます。(写真:日本赤十字社HPより)
戦争の救護活動を機に誕生
赤十字誕生の原点は、イタリア統一戦争(1859年)です。この戦争で救護活動にあたったスイス人実業家のアンリー・デュナンは、国際的な救護団体の必要性を訴えました。それにより、武力紛争時に守るべき人道上のルールを定めた「ジュネーブ条約」が締結され、1864年、国際赤十字組織が誕生しました。赤十字のマーク は実は「病院」や「医療」を表すものではなく、戦争や紛争などの負傷者や救護する衛生部隊、赤十字の救護員・施設などを「攻撃してはならない対象である」 (Not A Target)と示すもの 。国際的な平和に大きな意味をもち、マークの使用はジュネーブ条約や法律で厳格に定められています。※※個人や一般の病院が使うことはできません。
赤十字の7つの原則
赤十字社は7つの原則に基づき活動を行っています。その中でも「人間の生命は尊重されなければならないし、苦しんでいる者は、敵味方の区別なく救われなければならない」 という人道 がすべての活動の基本原則です。
世界中に広がるネットワーク
人道支援団体である国際赤十字組織は、世界中にネットワークがあり、それぞれに役割をもって、お互いに連携・協力関係にあります。
図:日本赤十字社資料より
日本赤十字社の原点「苦しんでいる人を助けたい」
日本赤十字社は、1877年の西南戦争での救護活動をきっかけに設立された「博愛社」を前身とし、1887年に日本赤十字社に改称。世界で19番目の赤十字社 として認められました。 日本赤十字社は、「苦しんでいる人を救う」という人道の理念のもと、有事の救護活動をはじめ、国際活動、災害救護、医療事業、血液事業など幅広い活動を行っています。
国際活動
災害救護
医療事業
血液事業
社会福祉
看護師養成
講習普及
青少年赤十字
ボランティア
世界の紛争地帯で命を救う活動に従事
長年続くイスラエル・ガザ人道危機、2022年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争、2026年2月に激化した中東地域での軍事対立...。こうした紛争地域においても、日本赤十字社は各国の赤十字組織と協力して人道支援活動を続けています。 活動内容は、負傷者の救護や物資支援といった緊急対応、被害を受けた人々の心のケアやリハビリテーション、人材育成など、長期的な支援にも及びます。
▲2018年4月から、パレスチナ赤新月社がレバノン国内で運営する病院への医療支援に。現地の医師や看護師の研修や派遣なども行っています。(日本赤十字社HPより)
▲新生児の観察
実際にガザ地区で活動されていた 看護師・川瀨さんのお話を聞きました。
「明日が来ないかもしれない」 日本赤十字社の ガザ地区での支援
2023年10月に激化したイスラエルとガザ地区における武力衝突。その時、現地で支援活動を行っていた看護師・川瀨佐知子さんに、当時の活動内容や今抱いている思いについてお話を伺いました。
▲パレスチナ赤新月社の救助活動 ©PRCS
大阪赤十字病院 看護部 看護係長川瀨 佐知子 さん
大阪市生まれ。2000年に大阪赤十字病院に入職。高校時代、ブラジルに留学。そこで見た世界の実情に対し、「自分も何かしなければいけない」と看護師を志す。ジンバブエやハイチ、ガザ地区などの支援事業にも携わり、現在は大阪赤十字病院にて救急の看護師として勤務。
川瀨さんのガザ地区での活動
看護研修を行うために現地へ突然の武力衝突が発生
川瀨さんは2022年からガザ地区へのリモート支援に参加。「医療サービスの質の向上」を目的とし、ガザ地区北部ガザ市にあるパレスチナ赤新月社ガザ支部で、地域の医療機関であるアルクッズ病院のスタッフとオンラインで、看護技術のワークショップなどを行っていました。2023年7月、現地に赴き、看護師80人を対象にした血圧測定や点滴の管理などの研修を実施。同年10月7日に武力衝突が発生。緊急で南部に退避した後、そこで3週間半、避難民やスタッフの健康管理などを行い、日本に帰国しました。
▲川瀨さんと共に働いたガザ地区事業チームメンバー
◀武力衝突が起きる前、褥瘡(じょくそう)予防、処置の研修のようす
今も、ガザ地区で起きていること
ガザ地区の面積は約360平方キロメートル、人口は約220万人。周囲は高さ6mの壁で囲まれ、壁の向こう側へは人も物も自由に出入りできません。電気や水、教育、医療サービスにも制限があり、"天井のない監獄"とも言われています。イスラエルとガザ地区の紛争は長年続いており、双方合わせて7万1,000人以上の犠牲者(2025年12月時点:UN OCHA)が出ています。
「Not A Target」のはずが...
2023年の大きな武力衝突では、「Not A Target」を表す赤十字関連の医療機関も被害を受けました。川瀨さんが働いていたアルクッズ病院も、一時、患者の受け入れができない状況になりました。
▲大阪赤十字病院が人道危機の収束を願っておこなった 「医療はターゲットではない」のキャンペーン
命がなくなるかもしれない状況で川瀨さんが感じたこととは
健康管理や薬剤の手配など 苦しんでいる人を助ける行動に
10月7日の早朝、「ドンドン!」というロケット弾のような音で目が覚めた川瀨さん。その後も何日も爆撃は続き「明日はもうこないかもしれない」と、毎日思いながら眠りについていたそう。 「自分の命さえどうなるかわからない中、当時のチームリーダーから『今こそ私たちは人道支援を続けなければいけない』と言われ、ハッとしたんです。その言葉で自分の役割を思い出し、避難民やチームメンバーの健康管理、薬剤の手配など、目の前の人たちの命をつなぐ行動に全力を尽くしました」
▲(上)被害を受けたアルクッズ病院 (下)武力衝突前のアルクッズ病院
戦禍での生活 子どもたちの存在が希望に
避難先で支援活動に従事していた川瀨さん。武力衝突の激化に伴い、子どもたちからも少しずつ笑顔が消えていくことを感じていました。 「でも、私が折り鶴を折ると子どもたちに笑顔が戻り、その笑顔を見て、大人も笑うようになったんです。多くの命が失われる一方で、新たに生まれる命もありました。私は避難先で赤ちゃんのケアも担当しました。こんな状況にもかかわらず、汚れ一つない真っ白な服を避難先にまで持参し、産まれたわが子に着せていたんです。幸せな瞬間でしたが、その様子を見て、この地区の人々が経験してきた悲しい出来事に思いを馳せずにはいられませんでした」
▲川瀨さんたちのチームが避難先での負傷者の処置を行うようす
▲戦禍で産まれた赤ちゃんを抱っこする川瀨さん
自分たちにできることは 何か?
11月1日、私は急きょエジプトに退避することになりました。そのとき、同僚の看護師が言った「命の重さは同じはずなのに、この世界はフェアにできていない。自分たちに人権なんてない」という言葉が心に強く残っています。また、広報担当だった若い仲間の命も失われました。 みなさんに問いかけたいのは、「明日が来ないとしたら、何をしますか?」ということ。現地で体験したことや、ガザ地区の状況を伝え続けて、支援の輪を広げることが私にできることだと思っています。 みなさんもこの機会に、自分にできることは何かを考え、平和のために小さなことでも行動に移していただけたらと思います。